令和1年度 九州大学理学府物理学専攻 集中講義 (2019年11月26日-28日)
「散逸系における秩序化現象:振動・同期現象の理論とその応用」

場 所: 九州大学伊都キャンパス 物理会議室1(ウェスト1号館A-711)

日程:
11月26日(火) 10:00〜11:30, 13:00〜14:30, 14:50〜16:20
11月27日(水) 10:00〜11:30, 13:00〜14:30, 14:50〜16:20, 17:00〜18:00※談話会を兼ねる
11月28日(木) 10:00〜11:30

講義概要:
我々の世界には様々な秩序があります。例えば自分の体に目を向ければ、細胞集団が同期して活動することによって、心臓は拍動し、体は24時間のリズムを刻み、また、四肢の動きの関係性を調整することによって、走ったり泳いだりすることができます。さらには、体の毛並みは揃い(必然的に、つむじというトポロジカルな欠陥を持ち)、細胞集団は方向性を揃えて進むことができます。前者は主に時間的、後者は主に空間的な秩序化現象といえます。これらのどの秩序化現象も、位相と呼ばれる時間・空間並進対称性の破れに付随するモードに着目することによって、その本質を理解することができます。この講義では、様々な秩序化現象を位相ダイナミクスによって記述・理解・制御するための理論枠組みを基礎から学びます。そして医学・生物学や化学分野での応用を紹介します。この講義では散逸系と呼ばれるエネルギーや物質の出入りがある系における秩序化を取り扱います。そこで、散逸系とエネルギー保存系の本質的な違い、散逸系における時間的・空間的対称性の破れ(分岐)、タイムスケールの分離に基づく発展方程式の簡単化など、非平衡・散逸系・非線形の物理学における重要な基礎概念についても学びます。学部2年までに学ぶ微積と線形代数の知識があれば楽しく聞けると思います。広い分野の学生・研究者の来聴を歓迎します。

(1) 散逸系の特徴、エネルギー保存系との対比
(2) 分岐:散逸系における振動の生まれ方
(3) タイムスケールの分離と縮約
(4) 位相縮約(基礎と演習)
(5) 位相方程式の解析
(6) 発展的話題(蔵本モデル、集団記述、ネットワーク構造、ノイズ)
(7) planar cellular polarityの秩序化と位相縮約

====第4回物理学教室談話会(セミナー)====
題 目: 位相モデルによる数理と実験:時差ボケ、ロコモーションなど
日 時: 2019年11月27日(水) 17:00-18:00

概要:
長距離移動をすると、我々は時差ボケに苦しむ。時差ボケは体内の概日時計と昼夜のリズムのミスマッチが原因であるが、西向きよりも東向きの旅行のほうが時差ボケの治りが遅いという経験を聞くことが多い。マウスの実験でも、東向きの長距離移動に対応する明暗リズムのシフトのほうが、時差ボケがかなり長引くことが知られている。本発表では、近年の実験データに基づいた、位相モデルによる概日時計のモデリング、時差ボケに対する実用的な対処法の提案、そしてマウスをもちいた実証実験について報告する[1,2]。また、時間があれば、マウスのロコモーションのモデリングとパラメータ推定による学習過程の理解などの最近行っている研究についても紹介したい。

[1]Y. Yamaguchi, T. Suzuki, Y. Mizoro, H. Kori, K. Okada, Y. Chen, J.M. Fustin, F. Yamazaki, N. Mizuguchi, J. Zhang, X. Dong, G. Tsujimoto, Y. Okuno, M. Doi, H. Okamura: "Mice Genetically Deficient in Vasopressin V1a and V1b Receptors Are Resistant to Jet Lag", Science 342, pp. 85-90 (2013)
[2]H. Kori, Y. Yamaguchi, H. Okamura. Accelerating recovery from jet lag: prediction from a multi-oscillator model and its experimental confirmation in model animals. Scientific reports, 7, 46702 (2017).

back/戻る