郡宏
「振動と同期のシンプルな記述と応用」
次世代脳プロジェクト 2018年度冬のシンポジウム,2018年12月12日 一橋大学 一橋講堂(チュートリアル, tutorial)

生命システムにおいて、振動と同期はいたるところに現れ、重要な機能を担う。また、ときには病気などの問題の原因となる。心臓の作り出す拍動や、我々の24時間の体内時計は、細胞集団が同期することによって作り出されている。パーキンソン病に見られる震えの症状は、脳の特定の部位が異常に同期することによって現れると考えられている。近年は神経細胞とグリア細胞の運命決定といった細胞分化においても、遺伝子発現の振動や、細胞間の相互作用による振動位相の調整が重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある。

神経細胞ネットワークは、振動と同期が関わるシステムの中でも、特に複雑なシステムであろう。まず神経細胞そのものが多様であり、加えて、また振動を作り出す機構も、電気的なものと遺伝子的なものの少なくても2つある。また、神経細胞ネットワークは複雑な構造をもち、さらに、細胞間相互作用には様々な神経伝達物質が関わっている。そのような複雑な対象で現れる複雑な現象をどのように理解できるだろうか?

この講演では一つのアプローチを紹介したい。振動や相互作用をできる限り単純化して記述することによって明快な理解を目指し、さらに、現象の予測や予言、さらには制御を目指すというものである。シンプルな記述方法の処方箋はいくつか知られている。蔵本によって開発された位相記述理論はその代表例であるが、これ以外にも振動ダイナミクスに対して有効な記述法がいくつか考えられる。これらを紹介しながら、シンプルな記述のメリットやデメリットについて議論したい。また、このようなアプローチによって理解や制御がうまくいったと考えられる例をいくつか紹介したい。その上で、シンプルな記述が脳の理解にどのように貢献できるか、会場のみなさんからのご意見を頂きながら考えてみたい。

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