研究内容

主に非平衡熱統計力学・非線形動力学・複雑系に関する研究を行っています. 古くて新しい問題が好きです. 以下はこれまで関わった研究の例です.


熱機関の最大仕事率時の熱効率の研究
熱機関の最大効率(カルノー効率)は準静的極限で達成されますが,単位時間あたりの仕事である仕事率(パワー)がゼロになるという実用上の問題があることが古くから指摘されています.この問題に対し,有限時間カルノーサイクルの分子運動論模型を提案し,経験則であった熱機関の最大仕事率時の効率限界(Curzon-Ahlborn効率)の妥当性を分子運動論のレベルから実証しました.また線形非平衡熱力学(カルノーサイクルのOnsager係数の同定)に基づいて効率限界達成のメカニズムを説明することに成功し,カルノー効率とは異なる普遍的な熱機関の法則を確立しています.非線形不可逆熱機関の理論体系の提案,有限サイズ熱源の理論,カルノー効率と有限パワーの共存理論,幾何学的アプローチなど,有限時間熱機関の物理学の構築に取り組んでいます.

近年は非平衡熱力学と非線形ダイナミクスを融合させたより複雑な熱力学系の研究,例えば,生物機能の理解・制御や工学的な新機軸の提案などにも取り組んでいます.

低温度差スターリングエンジンの非線形動力学解析
手のひらの温かさと室温の間のわずかな温度差で回転運動する低温度差スターリングエンジンは持続可能社会における重要なエネルギーテクノロジーの1つとして知られています.エンジンを温度差で駆動された熱力学的な非線形振り子として記述するシンプルな運動方程式を導出し,その回転メカニズムを分岐理論の観点から明らかにしました.また実験的検証による理論の分岐シナリオの実証や,非平衡熱力学を用いた熱効率の解析も行っています.今後自律非平衡熱機関の基礎・応用研究への足がかりとなることが期待されます.
日本語の解説記事:
低温度差スターリングエンジンの力学系モデリングー自律非平衡熱機関の物理学に向けて
日本物理学会誌, Vol.75, No.6, 324 (2020)

結合振動子のシンクロのエネルギー論
結合振動子は自然・工学現象に普遍的に現れる振動現象の同期(シンクロ)を記述する数学的枠組みとして,非線形力学系の分野で活発に研究されています.微小生物の鞭毛のシンクロなどを念頭に,シンクロに伴う結合振動子系のエネルギー散逸率最小化を示し,結合振動子研究に非平衡熱力学による新しい観点を提供しました.

断熱ショートカットの研究
近年,量子系の断熱変化を高速で行う断熱ショートカットと呼ばれる手法が理論的に提案され,実験・応用面からも注目を集めています.量子調和振動子系に対して,伏見康治氏が提案した遷移確率の確率母関数の手法を応用して,断熱ショートカットを特徴付ける断熱パラメータを導入しました.また断熱ショートカットを等温・断熱過程にも適用した確率的熱機関の早送り理論も提案しています.

より最近の研究例:
熱対流運動の熱力学効率の研究
多次元熱力学不確定性関係による異常拡散の持続時間限界の研究
など

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