Achievements

共同研究者とともに行ってきた主な研究成果です。

時差ボケは体内時計の「混乱」によって起こる

我々が約24時間の生活リズムを持っているのは、脳にある体内時計中枢の働きによる。しかし時計中枢があるゆえに、海外に行くと現地時間にすぐに適応できず時差ボケ状態に陥る。我々は、この時差ボケの原因が時計中枢の一種の混乱によることをマウスの実験と時計中枢の数理モデルの両面的アプローチから突き止めた。時計中枢は時計細胞と呼ばれる24時間のリズムを刻む細胞の集団によって構成されているのだが、正常な状態ではこれらが一致団結してリズムを刻んでいる。しかし大きな時差を与えると、この集団が一時的にバラバラになり、時差ボケが起こる。ある遺伝子をノックアウトすると、このような混乱が抑制され、時差ボケを示さなくなる。時差ボケの原因が明らかになった初めての実験研究であり、また、時差ボケのメカニズムに踏み込んだ新しい数理モデルの提案がなされた。

Y. Yamaguchi, T. Suzuki, Y. Mizoro, H. Kori, K. Okada, Y. Chen, J.M. Fustin, F. Yamazaki, N. Mizuguchi, J. Zhang, X. Dong, G. Tsujimoto, Y. Okuno, M. Doi, H. Okamura:
“Mice Genetically Deficient in Vasopressin V1a and V1b Receptors Are Resistant to Jet Lag”,
Science 342, pp. 85-90 (2013, October)

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振動子間の相互作用はリズムを正確にする

心臓の拍動は振動性の細胞集団からなるペースメーカ組織によってトリガーされている。また、24時間の体内時計は脳にある時計細胞集団が制御している。このように生物リズムは振動子集団によって作られている。我々は理論研究によって、振動子が相互作用すると、その振動がより規則的になり、正確なリズムを刻めるようになることを示した。この理論は任意のネットワーク構造に適用でき、民主主義的なネットワーク構造で正確さが最大になり、独裁的なネットワークでは不正確になることも示した。

H. Kori, Y. Kawamura, *N. Masuda:
“Structure of Cell Networks Critically Determines Oscillation Regularity”,
J. Theoretical Biology 297, pp. 61 – 72, (2012, March) (PDF)

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複雑なネットワークで相互作用する集団の応答

例えば心臓の拍動のように,細胞集団からなる組織が同期した活動をしており,また,組織を構成する細胞をばらばらに分離しても,それぞれの細胞が周期的な活動を示す状況を考える.分離した細胞に刺激を与えると,振動のタイミングがある量だけずれる.一方,組織をなす細胞に刺激を加えると,結果的に組織全体の振動のタイミングがずれる.これらのずれはどのように関係づけられるだろうか? この研究では,位相振動子モデルを用い,各振動子の持つ応答特性と,相互作用した集団がもつ応答特性をつなぐ関係式を,外部入力が弱いことを仮定することによって導き出した.この関係式は相互作用が複雑なネットワークによって与えられている場合にも適用できる.

H. Kori, Y. Kawamura, H. Nakao, K. Arai, Y. Kuramoto:
“Collective-phase description of coupled oscillators with general network structure”,
Physical Review E 80, 036207 (2009, Sep) [9 pages] (full text)

N. Masuda, Y. Kawamura, *H. Kori:
“Collective fluctuations in networks of noisy components”,
New Journal of Physics 12, 093007 (2010, September) [15 pages] (full text)

振動子集団ダイナミクスの制御と化学反応実験による実証

この研究では一定のリズムを刻みながら反応をしたり運動をしたりする集団の振る舞いを操るための制御方法を,位相振動子モデルを基に構築した.その実証実験は,ヴァージニア大学において電気化学振動子集団を使って行われた. この研究成果は,2007年に科学雑誌Scienceで発表され,またScience誌の注目論文として同時にレビューもScience誌に掲載された.モデルが現実のダイナミクスの制御に使えたことはモデルが現実を捕らえた証拠であるとして評価された.この制御手法では,秩序だっている振動子集団をゆるやかな入力でばらばらにすることができたのだが,これは世界初の例である.パーキンソン病の治療でも弱い入力で神経細胞の異常な同調現象を壊す手法が注目を集めており,我々の手法は新しい治療方法の開発の手がかりになるかもしれない.

I. Z. Kiss, C. G. Rusin, H. Kori, J. L. Hudson:
“Engineering Complex Dynamical Structures: Sequential Patterns and Desynchronization”,
Science 316, pp. 1886-1889 (2007)

H. Kori, C. G. Rusin, I. Z. Kiss, and J. L. Hudson:
“Synchronization Engineering: Theoretical Framework and Application to Dynamical Clustering”,
Chaos 18, 026111, 13ページ (2008)

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同期領域の伝播の理論研究と、てんかんへの応用

てんかんを起こしている時、脳の神経細胞は異常な活動状態にあり、これが脳の領域から領域に伝播することが知られている。我々は、複数の振動子集団間で、同期活動がどのように伝播するかを理論的に研究し、この結果を、てんかん時の脳神経活動ののデーターメカニズムの考察に応用した。

I. Z. Kiss, M. Quigg, S. C. Chun, H. Kori, and J. L. Hudson:
“Characterization of Synchronization in Interacting Groups of Oscillators: Application to Seizures”,
Biophysical Journal 94, 1121-1130 (2008)

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複雑なネットワークにおけるノードの重要度を表す指標の計算方法と実データによる例示

ネットワークの中で重要ノードをランキングする指標とその計算手法の提案をした。この指標は固有ベクトルとして求まるのだが,数学で知られているmatrix tree定理によって,別の方法でも計算できる.この方法を用いることによって,近年興味が持たれているスモールワールド・ネットワークや階層的な構造を持つモジュール・ネットワークに対して指標を解析計算することに成功した.またこの指標が,外力による同期現象にも応用できることを,解析計算と数値計算の両面から示した.ネットワークは膨大な情報であり,ノードの重要性を表す指標作りが活発に行われている.我々の提案する量は応用範囲が広いと期待している.

N. Masuda, Y. Kawamura and H. Kori:
“Impact of hierarchical modular structure on ranking of individual nodes in directed networks”,
New Journal of Physics 11, 113002 (2009, Nov) [21 pages] (full text)

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分離培養した心筋細胞の拍動における,ゆらぎの解析

福井大学の原田崇広氏(現・東京大学)が中心になって行った研究である.マウスの心筋細胞を分離培養すると自発的に拍動するのだが,その拍動のリズムは非常につよい揺らぎをもっており,このゆらぎは1/fゆらぎと呼ばれる自然界でよくみられる揺らぎである.私はこの揺らぎをもった振動ダイナミクスを再現するモデルの構築に携わった.実験観測結果はモデルによってよく再現された.

T. Harada, T. Yokogawa, T. Miyaguchi, H. Kori,
“Singular behavior of slow dynamics of single excitable cells”,
Biophysical Journal 96, 255-267 (2009, January) (full text)

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ニューラルネットワークモデルにおけるネットワーク構造の発展

ニューロンとして位相振動子を用い,STPDと呼ばれるニューラルネットワークの発展ルールを適応すると,様々なネットワーク構造が生まれる.ネットワークの中にペースメーカー(率先して発火するニューロン)がいるときは、そこからfeedforwad的(つまり一方向的)なネットワークが形成されることを示した。また、ネットワークモチーフと呼ばれる3ニューロン間の構造がこの発展則のもとどのようなものが生まれるかについて系統的に調べた。

Y. K. Takahashi, H. Kori, and *N. Masuda,
“Self-organization of feed-forward structure and entrainment in excitatory neural networks with spike-timing-dependent plasticity”,
Physical Review E 79, 051904 (2009, May) [10 pages] (full text)

N. Masuda and H. Kori,
“Formation of feedforward networks and frequency synchrony by spike-timing-dependent plasticity”,
Journal of Computational Neuroscience 22,327-345 (2007) (final manuscript)

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